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東京高等裁判所 平成6年(行コ)42号 判決 1994年10月27日

東京都文京区湯島三丁目二九番二号

控訴人

大倉興業株式会社

右代表者代表取締役

大倉京斗

右訴訟代理人弁護士

佐野榮三郎

東京都文京区本郷四丁目一五番一一号

被控訴人

本郷税務署長 牧禎男

右指定代理人

矢吹雄太郎

柳井康夫

阿部武夫

岩崎広海

江口庸祐

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人がいずれも平成二年九月二九日付けでした控訴人の昭和六二年一〇月一日から昭和六三年九月三〇日までの事業年度の法人税に係る更正のうち所得金額六六四四万五七八七円を超える部分及び重加算税の額を一八六万二〇〇〇円とする同税賦課決定を取り消す。

3  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

主文第一項同旨

第二当事者の主張及び証拠

当事者双方の主張及び証拠関係は、次のとおり付加するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する(ただし、原判決三枚目裏六行目の「二億六二五〇円」を「二億六二五〇万円」と訂正する。)。

(控訴人)

一  本件は、控訴人が大倉京斗の名義をかりてNTT株式一〇〇株を取得した借名取引である。控訴人が同時期に取得した他のNTT株式については、他からの借入金によって取得されたものでないから控訴人の借名取引と認定され、本件株式は銀行からの借入れによって取得されているために、その借入金に対する利息の支払が問題になっているのであって、両者の間に差異を設ける必然性はない。

二  控訴人は、当時東京国税局の査察を受けていたものであるが、担当係官からの指示に従って本件支払利息を損金に算入して修正申告書を作成し、国税局もこれを受理したものである。控訴人は、その後本件更正を受けることは全く予想していなかったから、不意打ちを受けたに等しく、本件更正は不公正な処分である。

(被控訴人)

一 控訴人の主張する他のNTT株式については、控訴人は本件係争事業年度に係る確定申告及びその後の修正申告において控訴人の資産として計上していなかった。本件訴訟で問題となるのは、本件株式の帰属のみで、他の株式の帰属については問題とならない。

二 担当係官が本件支払利息を控訴人の損金として認めた事実はない。

理由

一  当裁判所も、控訴人の請求は理由がないからこれを棄却すべきものと判断するが、その理由は、次のとおり付加するほか、原判決理由説示と同一であるから、これを引用する。

1  控訴人は、本件株式は控訴人が大倉京斗の名義を借りて取得したものであり、控訴人が同時期に取得した他のNTT株式については控訴人の借名取引と認定されていることから、両者の間に差異を設ける必然性はない旨主張する。

しかしながら、本件で直接争点となっているのは、本件株式の取得に要した借入金の支払利息が控訴人の損金に含まれるか否かであり、その前提として、本件借入金ないしそれによって取得した本件株式が控訴人に帰属するか大倉京斗に帰属するかが問題となっているものであって、控訴人主張の他の株式の帰属の問題は本件と直接関係しないものである。そして、本件借入れが大倉京斗の名義でされていること(争いがない)、本件全証拠によるも、控訴人がことさら本件借入れを大倉京斗名義でしなければならない理由があるとは認められないこと(原審証人立花丕顕は、控訴人名義ではNTT株式二〇〇株を買えない恐れがあるから名義を二つに分けたものであると聞いている旨供述するが、右供述は、成立に争いのない乙第五号証に照らして採用できない。)、現に大倉京斗はその所得税の確定申告において本件株式を自己の財産、本件借入金を自己の債務、本件株式の配当金を自己の収入、本件借入金の支払利息を自己の必要経費として申告したこと(争いがない)、本件株式の配当金は大倉京斗の銀行口座に振り込まれていること(原審証人立花丕顕の証言)からすれば、本件借入金は大倉京斗個人に帰属するものと推認し得ることは、前記引用に係る原判決理由説示のとおりであるから、控訴人の右主張は失当である。なお、本件係争事業年度の確定申告・修正申告において、控訴人が本件株式と同時期に取得した他人名義の一五株のNTT株式を控訴人の資産として計上していたことを認めるに足りる証拠はない。

2  控訴人は、担当係官からの指示に従って本件支払利息を損金に算入して修正申告書を作成し、国税局もこれを受理したもので、その後本件更正を受けることは全く予想していなかったものであり、本件更正は不意打ちに等しい不公正な処分である旨主張する。

しかしながら、右の内容の修正申告が国税局係官の指示に基づくものであることについては、これに沿う原審における証人立花丕顕の証言は、それ自体伝聞にすぎないものであるのみならず、成立に争いのない乙第二号証に照らしても到底採用することができず、他にこれを認めるに足りる証拠がないから、右主張はその前提を欠き失当である。

二  よって、控訴人の請求を棄却した原判決は相当で、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 宍戸達徳 裁判官 西尾進 裁判官 福島節男)

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